COLUMN

連載:ポルトガルの手仕事

Vol.1 ラグを織るファティマさんの暮らし

Jun.30.2021
written by 村瀬 真希子

ポルトガル各地でフィールドワークをしながら、伝統の手仕事や若手作家のクラフトを日本に紹介する活動をしているカステラノート。女性ふたりのユニットです。その代表をつとめる村瀬真希子さんに、ポルトガルの手仕事の魅力について教えていただきます。第1回は、北の町で出会ったウールのラグです。

  

一目ぼれしたウールのラグを追って

2018年1月16日、ポルトガルの北の第二の都市ポルトから、さらに北へ向かうバスに乗ってトラス=オス=モンテス(Tras-os-Montes) という街に向かった。いかにも羊の毛の塊みたいな肉厚のポコポコとした手織りの織物に出会ったのはその1年前。ギマランイシュという街にあるポルトガルの工芸作家ものを紹介するギャラリーだった。そのラグにすっかり夢中になって、どうしてもこれを作った人を訪ねたいと思ったのだ。

そのギャラリーを運営する建築家のソニアに「連れて行ってほしい」とお願いしていたのだが、1年経ってもその機会が訪れず、複雑な思いもあるのか、ふわっと曖昧にさせがちなポルトガル人の気質からだろうか、なかなか詳細の場所を教えてもらえない。

偶然、その織りのことが載っている古い本を現地のブックフェアで見つけた

たまたま夏にポルトのブックフェアで見つけたポルトガルの織物の古い本に、その織物と作家であるファティマさんの名前、Tras-os-Montesという地名を見つけて、それ以外にあてはなかったけれど、帰国の前日に思い切ってその街まで1人行ってみようと思った。2日前にソニアにそれを伝えると、ファティマさんに電話をしてくれ、「明日はいないらしいから明後日にしなさい」と教えてくれた。住所は最後まで教えてもらえなかったが。

 

たどり着いたファティマさんの工房で

バスで降り立ったトラス=オス=モンテスの町。
ファティマさんの家はここから車でしばらく走り、オリーブ畑の広がる自然の中にあった

トラス=オス=モンテスは、大きな河のある街で、水面に強い冬の光が眩しくて美しい。人気は少なかったが、バスを降りて歩き始めたら、あれよあれよとたまたま出会った街の人の縁で数十分のうちにファティマ家にたどり着いていた。なぜかポルトガルに来ると不思議とこういうことがよくある。

当時の私はポルトガル語もろくに話せず、ポルトガル語とフランス語を話すファティマさんとはほぼ言葉が通じない。ひょっこり突然1人やって来た東洋人をファティマさんは、まぁ入りなさい、好きに見ていきな、とおおらかに自宅の一階にある作業場に迎え入れてくれた。

ファティマさん。祖母や母もこの土地で織物をしていた。
窓の外にはオリーブとアーモンドの木の畑が一面に広がる。

工房には、横幅2mにもなる大きな木の手作りの織り機が1台、1mほどの織り機が2台、いずれも年季の入った昔ながらの作りのもの。ところどころ木を入れ替えて手直しをしながら使ってきた様子がわかる。窓の外にはオリーブとアーモンドの樹の畑が一面に広がり、手前には自分たちで食べるための野菜たちが植えられている。紡いだ太いうねうねとした毛糸たちが生き物みたいに垂れ下がり、外の倉庫には糸になる前の羊の毛が積み上がっている。

 

手つむぎの毛糸。太くてうねうねとした温かみのある風合いがたまらない
古い道具でカーディングして、手際よく糸を紡いでいく。

羊の毛は染色はせずそのままの自然な色合い。以前は羊を育て。毛を刈り洗うといった工程もすべて自分で行なっていたという。今は羊毛を買い、閉鎖された工場から譲り受けた100年以上前の機械でカーディングし、ひょいひょいと華麗な手さばきで羊毛を毛糸へと紡いでいく。

大きな古い織り機を巧みに扱うファティマさん

 

そして、横幅2mほどの大きな織り機に糸をかけ、小さな体でパワフルに機を動かしながら、ラグを手織りする。古い織り機の音も心地よい。羊毛からラグが生まれる、そのすべての工程にすっかりと魅了された。

 

ものを作り、暮らしをつくる、その力強さ

素材や織り自体は土地に根ざす伝統的なものだが、特徴的なデザインはファティマさんのオリジナル

この後、何十回かに渡り、ポルトガル滞在中に訪ねては自宅に宿泊させてもらい、生活を共にしながら一緒に作業をしている。夫のジョゼさんと犬2匹猫1匹との暮らし。地に根ざした素材でひとり黙々とつくる作業だが、田舎のポルトガル人らしからぬオープンマインドで、異国の友人を連れて行った時も、食事を振舞ってくれながら興味深そうに外との意見交換を楽しんでいた。

初めて訪ねた日、帰りに庭のオレンジをたくさん持たせてくれた。

小柄でパワフルなアティマさん、彼女と過ごす時間は何より楽しく気持ちが良い。糸をつくり織りをしながら、食べるものをつくり、暮らしをつくっていく、人本来の力強い生き方、正しいあり方がそこにあるように思っている。

 

Profile : 村瀬真希子 / Makiko Murase

東京都生まれ、武蔵野美術大学卒業。日本のものづくりの会社でデザイナーとして働いたのち、2016年に友人の松島玲子とCASTELLA NOTEをスタート。ポルトガルと日本を行き来しながら現地でのフィールドワークを通して体験や手仕事を紹介する。またフリーランスとして写真、グラフィックデザイン、アートディレクションも手がける。

CASTELLA NOTE カステラノート
2016年スタート。ポルトガルでのフィールドワークをベースに、現地で出会ったポルトガルの暮らし、手しごと、デザインを紹介している。
https://castella-note.com/about/
@castella_note

*ファティマさんのラグをご希望の方は、メールでお問い合わせください。また、この秋冬の展示会で、ラグ販売とオーダー受付をする予定です。情報はweb, instagramをご確認ください。

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