つい最近まで⽇本ではあまり知られていなかった「トライバルラグ」という⾔葉。それを広めた⽴役者のひとりが、トライバルラグのバイヤーとして30年以上活動を続けている、tribeの榊⿓昭さん。展⽰会場で榊さんのラグに対する熱いトークに引き込まれた⽅も多いのではないでしょうか? 現地へ⾜を運び、またさまざまな⽂献でラグの歴史を辿り、研究をしている榊さんの連載です。トライバルラグはいったいどんな物なのか、その本質と魅⼒を何回かに分けて紹介してくださいます。
「今でもまだ絨毯を売っているの?」。同級⽣や久しぶりに会う知⼈から聞かれます。⾃分でもこの仕事だけで⽣計を⽴てて来られたのは本当に不思議です。
店を持たずに⼩商いに徹したことが続けてこられた理由かもしれませんが、あまりにも不器⽤で、他の事業に⼿を出すことができなかったというのが本当の理由かもしれません。
めまぐるしい現代社会で30年という時間は⻑く感じられるかもしれませんが、絨毯商としてはあっという間の時間だったと思います。
世界最古の絨毯は、「パジリク絨毯」と呼ばれるシベリアにあるスキタイ族の古墳から出⼟した絨毯です。今から70年程前にロシア⼈考古学者により南シベリアのアルタイ⼭中のパジリク渓⾕から発掘されました。紀元前400年頃のものと推定されます。今からおよそ2500年前に⼿織り絨毯が存在していたのです。その当時にかなり⾼度な技術と洗練されたデザインが存在していたことがわかっています(詳しくは次回以降でご紹介します)。
どこで、どんな⺠族によって織られたのかは研究者によって意⾒がわかれています。完成度が⾼い絨毯なので、その時代に「商業的な絨毯」が存在していたのではないか?という考えが、研究者の間では共通な⾒解となっています。
2500年前にすでに絨毯が商品として取引されていたのかもしれない。
絨毯商は案外古くからある商いなのだなと知りました。
そして現地では2500年前とほぼ同じ環境でそれが続いていることが、僕の30年の活動が1か⽉ほどのように感じられる理由なのかもしれません。
シルクロードを語るのに良く使われる「悠久の時」というフレーズがあります。
現地の絨毯商を⾒ていると、いま世界を覆う「より効率的に、より合理的に、より均⼀化」を⽬指すグローバル資本主義と⽐べ、2500年間あまり変らないスタイルでビジネスしているように思えます。
この仕事を始めた時に、パキスタン⼈の絨毯商から⾔われたことをよく覚えています。
「絨毯商を⻑く続けるために必要な要素はいくつかあり、まず1つには⼤⾦持ち、2つ⽬は何世代も続いた⼈脈を持っているか、3つ⽬は、ひたすら待つことができるかどうかということだ」と。1と2のどちらにも縁のない⾃分は、粘り強くただひたすら待つということが、今に⾄っているのかと思います。
この30年間で膨⼤な量の絨毯を⾒てきました。トルコ〜イラン〜アフガニスタン〜モロッコ 〜パキスタンでの買い付けで、朝から晩まで数えきれないほどのバザール、倉庫、家を訪ね、気に⼊る絨毯をひたすら探し続けて来たことはひとつの⾃信になっています。
選ばなかった幾千枚の絨毯を思うと感慨深いものがありますが、それらも今では世界のどこかの家庭か絨毯商の元に収まっていることでしょう。
「⽺を育て、⽺⽑を刈り取り、⽷に紡ぎ、染めて織り機に掛けて織る」。
遊牧⺠は数千年の間、同じ作業を繰り返し、繰り返し⾏ってきたのです。その⾏為は2500年前と今もほとんど変わらず続いています。
織り上がったものはオアシス都市のバザールか絨毯商によって遥か遠くまで運ばれ、世界各地に流通し、今もどこかを旅していることでしょう。
絨毯の旅、ぜひご⼀緒ください。
秋⽥県⽣まれ。20代の時にパキスタン⼈の絨毯商、イランでのトルクメンの⻘年との出会いをきっかけに部族の絨毯に魅せられ、tribe(トライブ)という屋号で遊牧⺠⽂化や先住⺠族のテキスタイルの販売を始める。全国各地で展⽰会などの傍ら、⼈々の⽣活の中から⽣まれるテキスタイル⽂化の魅⼒を伝えるために活動。⾃⾝のサイトでも多くのコラムを発信している。東京清瀬市のショールームは予約制。
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@tribesakaki36