COLUMN

連載:西洋更紗トワル・ド・ジュイの世界

Vol.1 マリーアントワネットも愛した「トワル・ド・ジュイ」

May.14.2021
written by シャルロ竹内彩子
最新のトワル・ド・ジュイの生地

フランスを拠点に、伝統生地「トワル・ド・ジュイ」をはじめとするヨーロッパの生地・ハンドメイド小物を販売するフレンチスタイルジュイによる、ヨーロッパの染織レポートを連載でお届けします。今回は現地在住のシャルロ竹内彩子さんによる記事です。

 

ヨーロッパで愛され続けるトワル・ド・ジュイとは

トワル・ド・ジュイ (Toile de Jouy)とは、18世紀発祥のフランスの伝統的なデザイン・⽣地のことで、現代では、18世紀頃の⼈物、⾵景、神話、天使、花などの植物柄がモチーフになった、主に2⾊使いのデザインの布や柄のことをいいます。 18世紀フランスのロココ調絵画(フラゴナール、ブーシェなど)を思わせるようなデザインが多いのも特徴の⼀つです。

1785年のトワル・ド・ジュイの復刻版。当時ののどかな⽥園⾵景が描かれている。

多数のインテリア⽉刊誌が出版されるインテリア⼤国フランスにおいて、カントリー調、ロマンティック調、トラディショナル調といったインテリアには⽋かせないデザインのひとつで、トワル・ド・ジュイの壁紙や、カーテン・ベッドカバーなどのファブリックが使われたコーディネートは、毎⽉いくつかの雑誌に必ずと⾔っていいほど登場します。

インテリアでは、ファブリックだけでなく壁紙も⼈気。トワル・ド・ジュイ美術館のカフェ
(現在は閉鎖)。

また、インテリア以外にも、 トワル・ド・ジュイのデザインが施された製品もたくさんあります。クリスチャン・ディオールをはじめとするハイブランドから、カジュアルファッション、コスメ、雑貨など幅広い商品分野のブランドで、トワル・ド・ジュイのデザインをモチーフにしたコレクションが毎年のように発表されており、フランスだけでなく、欧⽶を中⼼とした世界中の熱狂的なファンやコレクターに⽀持されています。
 

⽇本でも古くから⼀部のコレクターの間では親しまれていましたが、「トワル・ド・ジュイ」という名前が認識されるようになったのはここ20年ほどではないでしょうか。主にフランスの伝統⼯芸、カルトナージュ(cartonnage・美しい布や紙で箱などの雑貨をデコレーションする⼿芸)を楽しむ⼈たちの間で⼈気が出始め、2016年には、東京渋⾕にあるBunkamuraザ・ミュージアムにて「⻄洋更紗 トワル・ド・ジュイ展」が開催されました。

 

東洋と西洋の文化が出会って生まれたテキスタイル

18世紀後半、オベルカンフによって作られたトワル・ド・ジュイ 。メトロポリタン美術館

歴史的には、⼤航海時代、17世紀にフランスに⼊ってきたインド更紗が起源とされています。それまでのフランスではみられなかった印刷のモチーフによる⽣地です。それまではフランスの⽣地は織りによるものでした。18世紀に⼊って、プリントの技術のノウハウをもっていた技師、クリストフ・フィリップ・オベルカンフによって、ベルサイユ近郊の清流に近い村、ジュイ・オン・ジョザスにオベルカンフ製作所が作られます。当時は、この製造所で作られた綿織物全般のことを、トワル・ド・ジュイと呼んでいました。トワルとはフランス語で布の種類を意味します。つまり「ジュイ村のトワル布」という⽣産地ブランドとして確⽴され、⼤変な⼈気を博しました。

ジュイ・オン・ジョザスの当時の製作所⾵景。Jean-Baptiste Huet (1807)

当時は、現代のトワル・ド・ジュイ特有のモチーフ以外のものも多く、模様化された花や植物、ひし形、円形、ストライプなど様々なモチーフがデザインされていました。オベルカンフ製作所はヴェルサイユからも近く、当時の王族・貴族の御⽤達となっており、フランス王妃、マリー・アントワネットも、 何度もこの製作所に直接⾜を運ぶほど、トワル・ド・ジュイに魅了されていたといいます。

 

製作所跡地に建つ、トワル・ド・ジュイ美術館へ

この製作所は19世紀に閉められ、現在ジュイ・オン・ジョザスでは布の製造はされていませんが、製作所の跡地の⼀⾓に、トワル・ド・ジュイ美術館が建てられていて、当時の様⼦を偲ぶことができます。

パリから約1時間。⾃然豊かな⾵景の中に佇むトワル・ド・ジュイ美術館

⾒本アルバム、デッサンアルバム、布印刷に使っていた押し型等の道具、当時作られていたドレス、壁布、ベッドカバーなどがところ狭しと展⽰されており、オーベルカンフの部屋の様⼦や、製造の⼯程などを説明した英語の⾳声ガイドも利⽤可能です。

オーベルカンフの部屋

当時のトワル・ド・ジュイ関連の常時展⽰品の他に、現代のアーティストとコラボした臨時展や、講演会、ハンドメイド教室など年間を通して様々な催しも⾏われています。また、ミュージアムショップではフランス各地で作られたトワル・ド・ジュイ製品が揃い、お⼟産にも⼈気です。美術館はヴェルサイユ宮殿からも近く、欧⽶のコレクターを始め観光客はもちろん、近年では⽇本⼈観光客の姿もよく⾒るようになりました。ジュイ・オン・ジョザス⾃体はとても⼩さな村ですが、マリーアントワネットに思いを馳せながら、フランスの伝統的なデザインの根幹に触れるのも素敵な旅の1ページになるのではないでしょうか。
トワル・ド・ジュイ美術館/Musée de la toile de Jouy(フランス語)

Profile : シャルロ竹内彩子 / Ayako Takeuchi Charlot

2008年フランス南西部コニャックにて、 シャルロ竹内彩子が創業。2011年にフランス人スタッフ、2014年に日本人スタッフ(伊藤志帆子)が参画し3人体制での運営となる。2018年8月、伊藤が東京実店舗「フレンチスタイルジュイ」を台東区上野桜木にオープン。ワークショップなども行う。2020年、日本の伝統生地とフランスの伝統生地を掛け合わせるプロジェクト「kiho(企布)」を立ち上げ、「亀田縞×トワルドジュイ」のコラボ商品を販売するクラウドファンウンディングでは目標金額の2倍を達成。
フレンチスタイルジュイ
kiho(企布)

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